ChatGPTは、その性能の高さから爆発的に普及が進んでいます。幅広い活用が可能な一方で、しばしば不正確な回答がみられることや悪用のリスクなど、活用の限界や懸念に関して多数指摘されています。また関連する情報は膨大で全容を把握することは容易ではなく、特にビジネスにおけるChatGPTの活用について一元的に集約されたものはないのが現状です。 「ChatGPTチャレンジ」は、ビジネスシーンでのChatGPTの「具体的な活用成功例」「具体的な活用失敗例」を集約し、集約された知見を参加者の皆様と共有することで、ChatGPTの理解を深めるという目的で開催されました。
「ChatGPTチャレンジ」活用失敗例部門で第3位に入賞した高橋ブエモンさんに、コンペティション参加した体験談について語っていただきました。
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コンペを通して見えてきたAfter ChatGPTに必要な人材
コンペ「ChatGPT チャレンジ」のアイデアを考えるためにChatGPTを試している中で、最初はChatGPTを使うと「すごいアイデア」が簡単に作れると驚いていました。しかし、じっくり考えてみるとChatGPTがもたらしたのは単なる「すごいアイデア」ではなく、「アイデアのベースラインのアップ」だと気づきました。つまり、今後はより高度な知的人材が求められる時代が訪れ、知的生産能力を向上させる学習機会がこれまで以上に重要になるということです。一方でChatGPTがその学習の実現に役立つことにも気付きました。現在、大学でChatGPTに対する否定的な意見が出されていますが、むしろChatGPTは「After ChatGPT時代」の人材育成に不可欠な存在であると考えています。 コンペを通じて得られたこのような気づきがどういったものであったのかをお話ししていきたいと思います。
ChatGPTがもたらしたのは「すごいアイデア」ではなく「アイデアのベースラインアップ」だった
ChatGPTで生成できる「すごいアイデア」が実は「すごくない」という事実に気づいたのは、「ChatGPTチャレンジ」でビジネス活用の成功事例を検討しているときでした。ビジネスで成功を収めるためのアプローチは様々ですが、その一つは「他者を出し抜く」というものです。ChatGPTは瞬時に「すごいアイデア」を生み出せるため、他者を出し抜く斬新なアイデアが容易に得られると考えていました。しかし、考えているうちに誰もがChatGPTからすぐに「すごいアイデア」を得られるのであれば、それらは「すごくないアイデア」になってしまうと気づいたのです。「すごいアイデア」は、限られた人々のみが思いつくから「すごい」のです。しかし、ChatGPTによって「誰もが」簡単に「すごいアイデア」を手に入れられる状況では、それらは他者を出し抜く力がない「すごくないアイデア」になってしまいます。 このことを「ラーメン激戦区で勝ち残る」という問題で考えてみたいと思います。
①ラーメン激戦区ではライバル店が多く存在しているため、これらを出し抜かねば勝てません。しかし、そういった「すごいアイデア」を思いつくことは難しいです。 ②そこでChatGPTに「ラーメン激戦区で勝ち残るアイデアを教えてください」と尋ねてみます。すると即座に10個のアイデアを考えてくれます。 ③この「すごいアイデア」があれば他店を出し抜けると思えます。 ④しかし、ChatGPTはこの「すごいアイデア」をほかの店舗にも分け隔てなく与えてしまいます。そうなれば、そのアイデアは他店を出しぬことができない「すごくないアイデア」になってしまうのです。 このことから分かったことは、ChatGPTがもたらしたのは「すごいアイデア」ではなく、「アイデアのベースラインのアップ」だったのです。アイデアのベースラインが上がってしまったこの「After ChatGPT時代」において、ビジネスで成功を収めるためには、ベースラインを超える「超すごいアイデア」が必要となります。
ChatGPTがもたらした新しいベースラインを超えられる人材のために必要なものもChatGPT
ChatGPTがもたらしたこの状況下では、コンペでChatGPTを用いて作成したビジネスの「すごいアイデア」を投稿しても、それはすぐに「すごくないアイデア」になってしまいます。そこで注目したのは、人がChatGPTを超える「超すごいアイデア」を生み出すという「人の可能性」です。そのために、ChatGPTを「超すごいアイデア」創出のサポートツールや、「超すごいアイデア」を生み出せる人材の育成ツールとして活用しようと考えました。 そうして考えたアイデアを2つ紹介します。
ChatGPT×SCAMPER=アイデア創出サポートツール
アイデア創出法として「SCAMPER」というものがあります。これは課題に対して以下の7つの切り口でアイデアを考えるというものです。
・Substitute:何か別のものに置き換えができないかを検討する ・Combine:2つ以上のものを組み合わせられないか検討する ・Adapt:もともとあるアイデアを応用できないか検討する ・Modify:製品やサービスを修正・変更することができないか検討する ・Put to other uses:技術や素材などをこれまでとは別の使い方や目的で使用できないか検討する ・Eliminate:プロセスや機能を排除、削除することができないか検討する ・Reverse, Rearrange:逆にしたり、並べ替えたりして、再構成できないか検討する SCAMPERは強力なアイデア創出法ですが、一方で使いこなすことは難しいです。そこで、ChatGPTにこのSCAMPERを使ってアイデアを出してもらいます。ここで使ったプロンプトとその結果出てきたアイデアは以下になります。 「ラーメン激戦区で勝ち残るためのアイデアをSCAMPERを使って考えてください。」
このようにすれば手軽にアイデアを創出できます。生成されたアイデアの中には、素人でもすぐに具体的な案を思いつけそうな妥当そうなものもあれば、実現困難そうなアイデアもあります。ここで注目すべきは、一見妥当そうなアイデアではありません。それでは引き上げられたベースラインを超えた「超すごいアイデア」にはなりません。注目すべきは、「ラーメンをもとにしたスイーツやアイスクリームを提供する」のような具体的なアイデアを思い付くことが難しいものです。私がこのアイデアを基に発想すると、例えば「ホイップクリームの中に麺を入れる」のような微妙なものしか思いつけません。しかし、長年ラーメン開発に携わり、考察を深めてきた人であれば、培ってきた経験とこの困難そうなアイデアが結び付き、「超すごいアイデア」を創出できると思います。
ChatGPT×架空データ分析コンペ=アイデア創出人材育成
重要なビジネススキルの一つとして仮説思考があります。これは問題の切り口を素早く見つけ、解決に結び付く効果的なアイデアを創出するためのものです。データサイエンスにおいても中核をなすスキルです。仮説思考を身に着けるには日頃から意識して仮説を立てることが効果的ですが、そうはいってもはっきりした対象がないと難しいのも事実です。そこで、ChatGPTに仮説を立てる例題として架空のデータ分析コンペを作ってもらうことで練習問題を作成しました。そのために使ったプロントとその結果は以下になります。 以下の条件で架空のデータ分析のコンペを作成してください ・特徴量の数は25個 ・テーマは電化製品の売上予測 ・対象の製品はいくつか種類があるものとする ・目的変数は1か月のそれぞれの製品の売上個数
この特徴量を基に仮説を立てることで、仮説思考のトレーニングを進めます。例えば、「冷蔵庫は新生活に向けて買われることが多いので春に売り上げが上がる」や、「平均降水量が多い月は少し重量が高い製品が売れづらくなる」といった仮説を立てます。実際にはデータが存在しないので、正しいかの検証をすることはできません。しかし、仮説思考では的中させることよりも、どれだけ仮説を立てることができるかがまずは重要なので、とにかく仮説を多く作る練習にこれを使うのです。私は一つの架空のデータ分析コンペごとに、20個以上の仮説を考えるという制約で挑戦しています。 このトレーニングを通じて仮説思考を身につけることができれば、問題の本質を見極めた「超すごいアイデア」を創出できる人材になることができると思います。
After ChatGPT時代の人材育成に向けた教育の在り方
After ChatGPT時代には、新しいベースラインを超える「超すごいアイデア」を創出できる人材育成が求められため、教育のアプローチを変える必要があります。 大学では考える力を養うためにChatGPTの使用を制限するという話が聞かれますが、それで「すごいアイデア」を考えられる人材を育成できても、After ChatGPT時代ではその人はAIに置き換えられてしまいます。一方でやみくもに使用を許可しても、従来と課題の内容が変わらなければ、それで生み出される人材はただChatGPTにプロンプトを入力するだけの、いわばAIに使われる人材になってしまいます。今後の教育ではChatGPTなどのAIを前提として、「超すごいアイデア」を創出できる人材を育成するための「超難しい課題」が必要です。ただし、具体的な方法論やカリキュラム設計は容易ではないため、幅広い議論を通じて模索することが必要だと考えています。
ChatGPTをテーマにしたコンペの意義
このコンペを通じて、ChatGPTがもたらすインパクトについて深く探求できました。他の参加者の投稿からも、ChatGPTに対する捉え方や期待が見えてきたように思います。そこで気づいたのは、新技術が登場するたび、それがもたらす利益やリスクを評価する上で、コンペのような場が今後ますます社会的に重要になっていくだろうということです。
専門家の意見は引き続き大切ですが、技術が急速に民主化される現代では、その影響を広く検討するために非専門家であっても多様な立場から意見を提案し、それらをまとめていくことが不可欠だと思います。コンペがそういった意見集約のプラットフォームとして機能する可能性を発見できたことは、今回の収穫の一つでした。最後に、その先駆けとなる機会を提供してくださったSIGNATEに感謝の気持ちを述べたいと思います。 <ChatGPTについての知見を集約する共創プロジェクト「ChatGPTチャレンジ」はこちら>