安全な交通社会の実現に向けて、多くの企業が交通事故の予防安全技術の開発に力を注いでいる。株式会社SUBARUでは50年以上前から独自の安全技術を磨き続け、数々の優れたシステムを生み出してきた。しかし、限られた自動車用半導体リソースでこれまで以上に高い安全性能を追求するためには、より幅広い知見と工夫が必要とされる。そこで、集合知を活用した技術開発を推進するために、今回のコンペティションが開催される運びとなった。 これまで、同社ではコンペティション実施の事例がなかったのだが、どのようにして開催まで漕ぎ着けたのか。開催までの経緯や今後の展望について、小川氏に率直なお話を伺った。
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安全・安心な交通社会を目指して、技術を磨き続けている。
当社は50年以上前から自動車の設計・製造だけでなく、自動車に搭載する独自の安全技術を磨き上げてきました。例えば、独自のステレオカメラを用いた自動ブレーキやレーンキープ機能を持つアイサイトなど、事故を防ぐための多様なシステムを手掛けています。 当社が安全技術の開発に注力する理由は、自動車に乗る方の命を守ることが製造者としての使命だと考えているからです。命を守ることを最優先に開発を進めた結果、衝突事故を防ぎ、自動で完全停止する機能を備えた「ぶつからないクルマ」の開発に他社に先駆けて成功するなど、高度な安全技術を実現するまでに成長し、社会からの信頼を築き続けています。 一方で、今後さらに信頼に応えていくためには、従来の技術に加えディープラーニングを活用する必要がある。その考えのもと研究を進めていたのですが、納得いく技術開発ができていない葛藤もありました。

多角的な視点で課題を解決し、その人材獲得も狙ったコンペティションを開催。
ディープラーニングの開発を進めるためにまずは自力で模索しようとしたものの、世の中に多種多様なアプローチが溢れており、手法の選択に時間がかかっていました。では外部の力を借りようと共同研究や業務委託を検討しても、ベンダーによって技術力や得意領域が異なるため、どのベンダーに依頼するべきか議論が難航してしまう。どれも一長一短で、他に最適な開発手法がないか考えを巡らせる日々が続きました。どうすれば、膨大な数のアプローチの中から最適なものを見つけられるのか、優秀な方々の優れたアイデアを開発に取り入れられるのか。そんなことを考える中で思い当たったのが、コンペティションの開催でした。コンペティションであれば、多くの優秀な人材の知恵を借りながら、課題に対する幅広いアプローチを募ることができる。また今後ディープラーニングを用いた開発に注力していくにあたって、共に技術開発に取り組む仲間との出会いが生まれるかもしれない。そう考え、コンペティション開催に踏み切りました。 コンペティション開催にあたり、まずはプラットフォーム選定を行いました。重要視したのは、規模の大きさと国内からの参加者の多さ。先ほどもお話ししたように、採用目的もあり、現状国内での採用活動がメインであるため、なるべく国内からの参加が多いコンペティションにしたかったのです。この2点を基準にプラットフォームを探したところ、SIGNATEさんが最も条件に合致したので、お声がけさせていただきました。また、官公庁のコンペティション実績も豊富で、今回の課題に近しい画像検出をテーマにしたコンペティション開催事例も多数あったことも、安心して依頼できた理由の一つです。

多くの方に興味を持ってもらい、実際の開発にも活かすため、生のデータにこだわった。
いざコンペティション開催を決めたとはいえ、問題なく開催までたどり着いたわけではありません。まず障壁となったのは、社内の合意形成でした。コンペティションを開催する意義とは何か。どんな成果が得られるのか。その成果は本当に得られるのかといった懐疑的な意見が社内から寄せられたのです。それらの意見一つひとつに耳を傾け、疑問点を可能な限りクリアにできるよう、他社が開催したコンペティション事例とその結果を共有しながら、開発にいかに有用か説明を繰り返しました。また、社会的にニッチな領域に挑戦する方が参加しているなど、参加者の志向性についても丁寧に説明。そして、優れた解法を得られるだけでなく、オープンな開発スタンスの周知や人材獲得など、副次的な効果があることも伝え、徐々に社内の合意形成ができました。 これでやっと開催できると安心したのも束の間、次は画像データの準備が難航しました。今回のコンペティションでは実際にアイサイトで撮影した画像データを使うと決めていたのですが、コンペティションということで正確な正解データが必要で、これまで蓄積してきたデータだけでは正解データも含めたデータセットとして不十分だったのです。例えば、悪環境時のデータ。夜間や雨天、濃霧時のデータなどが不足していたため、悪天候になるのを待って撮影するなど、コンペティションのために新たにデータを用意しました。なぜそこまでして、実際の走行時のデータにこだわったのかというと、実際のデータであれば多くの方に興味を持ってもらえると考えたためです。私自身、一技術者として生のデータを公開してくれる企業には興味が湧きますし、普段触れないようなデータを扱えるなら、楽しみながらコンペティションに参加できると思いました。それに、優れたアウトプットが寄せられたとしても、アウトプットに使用したデータがダミーであれば、そのまま実際の開発に活かすことはできません。そのため、たとえ手間がかかろうとも生のデータを使うという部分は、開催に向けた準備の中でも特にこだわりました。

知見を募るだけでなく、採用の面でも成果が得られるコンペティションとなった。
本当に興味を持ってもらえるのか、不安を抱えながらコンペティションを開催したのですが、その心配は杞憂でした。開催してすぐにたくさんの方に参加いただき、スコアに関しても予想より早い段階で想定数値を超える投稿が寄せられました。また、開催期間中にフォーラムを見ていて印象的だったのは、参加者同士で相談し合ったり自分が考えた関数を公開したりと、協働する姿勢が見られた点。気づきや知識を独り占めした方が、自分の順位は上位になるかもしれません。しかしそうではなく、参加者全体で知恵を共有し合いながらより良いアイデアを生み出していく、オープンイノベーションのあるべき姿を目にしてコンペティションの魅力を再認識しました。 結果として、今回のコンペティションは大成功でした。正直、主なアプローチは共通で、細かな部分に個性が出ると想定していたのですが、その予想は見事に裏切られました。トレンドを取り入れたり、トラディショナルなアプローチをしたりと多種多様なアプローチが寄せられ、我々にはない視点や知見を得ることができました。今後は、今回集まったアイデアを参考に、実装に向けた開発に取り組んでいきたいと考えています。 また、今回のコンペティションでは、目的の一つだった採用面でも大きな成果が得られたと感じています。コンペティション開催後、当社に応募してくださった方の中には「コンペティションの内容を見ました」「実際に参加しました」と言ってくださる方が何人もいたのです。現在すでに活躍してくれている方もおり、このコンペティションが当社に興味を抱いてもらうきっかけになったことを実感しています。今後はこうして集まってくれたメンバーと共に、社内外問わずSUBARU Labの存在感をさらに増していきたいです。そして、コンペティションをはじめとしたオープンイノベーションのノウハウを社内に広げ、当社全体の技術力向上に貢献できるよう、尽力していきます。

「コンペティションの開催」を検討している企業・組織へのメッセージ
期待通りの結果になるのかは開催するまで分かりません。それでも、オープンイノベーションによって広く知見を集め、技術を開発していくという柔軟な開発姿勢を世の中に発信することが、採用面での強みにもなるはずです。解法だけではない多様なメリットを享受できると思うので、ぜひ恐れずに開催を検討してみてください。 <株式会社SUBARU「SUBARU 画像認識チャレンジ」のコンペティションの詳細ページはこちら>
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AI開発拠点「SUBARU Lab(スバルラボ)」を開設
株式会社SUBURUでは、2020年にAI開発拠点「SUBARU Lab(スバルラボ)」を東京・渋谷に開設しました。2030年に死亡交通事故ゼロを目指し*、その実現に向けて運転支援システム「アイサイト」にAIの判断能力を融合させることで、安全性をさらに向上させる研究開発を行っています。近年の再開発によりIT企業集積地として進化し続ける渋谷にオフィスを構えることで、AI開発に必要な人材のスムーズかつ的確な採用や、IT関連企業との連携などを可能とし、これまで以上にスピード感のある開発を目指しています。 * SUBURU乗車中の死亡事故およびSUBURUとの衝突による歩行者・自転車等の死亡事故をゼロに 「SUBARU Lab(スバルラボ)」の人材採用