「AI化を急速に進めなくてはいけない」「AIの可能性は無限大」など、各所でAIの重要性が叫ばれる今、生産性や効率性の向上を目的にAIを導入する法人・団体は少なくない。一方で、AIの開発には膨大な時間や手間がかかり、導入の障壁となっているのが現状だ。特にエンジニアたちを悩ませてきたのが、モデルのさまざまなパラメータを調整する工程だ。パラメータ調整の自動化を実現し、短時間で最適化する「ハイパパラメータの最適化」が可能になれば、AIの開発スピードを上げることができる。さらに、この技術は機械学習だけにとどまらずさまざまな分野へ応用できるため、社会に与える影響も大きい。そんな背景のもと、最適なハイパパラメータの探索(Hyperparameter Optimization、以下HPO)を自動で行うHPOモジュールを開発するために、今回のコンペティションが開催されることとなった。一体、このコンペティションにはどのような想いが込められているのか。主催者である、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下:NEDO)の新氏、末岡氏、そしてコンペ設計を担当した国立研究開発法人 産業技術総合研究所の大西氏にお話を伺った。 ▼コンペティションページはこちら 「HPO モジュールコンテスト~ハイパパラメータ最適化を短時間で行うモジュールを開発しよう!~」

国を挙げて、AIの社会実装を加速度的に進める必要がある。

新:このコンペティションを開催した背景にあるのは、日本の産業を盛り上げたいという想いです。日本はこれまでものづくり大国として世界に名を馳せてきましたが、熟練者の高齢化が進み、後継者不足・人手不足などの問題が生じています。このままでは優れた技術が失われてしまうかもしれない。そんな未来を防ぎ、日本の産業を活性化していくために、AIの社会実装が急務となっているのです。 大西:じゃあAIをどんどん導入すればいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、AIの開発には非常に多くの時間と手間がかかるため、なかなか導入が進まないという課題があります。 末岡:そこでNEDOでは、スムーズかつスピーディーにAIを導入することを目指して、AIのモデル構築や学習の調整にかかる時間を短縮するためのプロジェクトを立ち上げました。今回のコンペティションもそのプロジェクトの一環です。なぜ研究機関への委託ではなく、コンペティションという形をとったのか。その理由を一言で表すなら、“協創”するためです。新しい技術を生み出すためには、一つの機関で考え続けていてもベストなアイデアは出てこない。世界各国でオープンイノベーションが主流になってきているように、さまざまな人の叡智を結集させて取り組んでいかなくてはと考えました。 大西:また、画像認識や自然言語処理など、AIのモデルによって開発手法や最適化の方法は異なります。どんなモデルにも適用できる汎用性の高い技術を開発するためには、さまざまな角度から検討する必要がある。そのためにもコンペティションが最適だと考えたのです。

HPO-Competition-1

ハイパパラメータの最適化を自動化する。その技術の応用範囲は想像以上に広い。

大西:今回のコンペティションの主題は、モデルのさまざまなパラメータを調整する「ハイパパラメータの最適化」を自動で行うためのモジュール開発。冒頭で話したとおり、AIの開発には膨大な時間と手間がかかるのですが、特にハイパパラメータはコンマ単位で一つひとつ調整する必要があり、エンジニアたちを悩ませていたんです。 末岡:そこで大西先生が開発されたのが、自動でハイパパラメータを最適化するライブラリ『aiaccel』です。すでにこのライブラリはオープンソースソフトウェアとして公開されており、今回のコンペティションでは、これに組み込む新たなモジュールを募ることにしました。新たなモジュールについては、aiaccelをもとに改良することに加え、全く異なる思想で開発されたモジュールが提案されることも期待しております。 新:コンペティションの開催が決まったとはいえ、このプロジェクトで初めてのコンペティション主催です。開催するためのノウハウもないなか手探りで進めていかねばならず、非常に苦労しました。 末岡:一番苦労したのは、コンペティションの構成を決めることではなく、開催に向けた土台を整備すること。社内機構内でも前例が限られており、関連する規定を確認したり、上層部に説明したりと、コンペティション開催の前段階でやるべきことが多く大変でした。 新:それでも開催までたどりつくことができたのは、技術を発展させていくにはオープンイノベーションが必要不可欠で、自分たちのこの挑戦が、今後の活動を広げるきっかけになると確信していたため。今回の取り組みで、NEDOがオープンイノベーションの手法を積極的に取り入れるきっかけになればと考えていました。 大西:このコンペティションがHPOモジュールを題材にしているのも、モチベーションの一つでしたね。というのも、ハイパパラメータの技術を簡単に表現すると「最適な組み合わせを自動で算出するもの」であり、深層学習にとどまらず、さまざまな分野に応用できます。例えば飛行機の大きさや重さ、翼の角度の最適な組み合わせを自動で算出し、燃費効率を上げられるかもしれないし、信号機の時間間隔などの最適化によって道路の渋滞を減らせるかもしれない。この技術が発展すれば、社会に大きな影響を与えることができるのです。

HPO-Competition-2

このコンペに参加することは、今後どんな研究を行うにしても必ず糧になるはず。

大西:このコンペティションに参加するメリットは、たくさんあります。第一に、先ほど話したようにHPOモジュールは非常に応用範囲の広い技術であるため、今後何を研究するにしても活かせる知見が身につくということ。たとえ納得のいく段階まで達せなかったとしても、今回挑戦したことは必ず糧になるはずです。 末岡:それだけでなく、腕に自信がある方にとっては、AI研究の最前線にいる研究者の方々に、自分の実力を知ってもらうよい機会になるはずです。 新:大学の研究者や企業でAIを研究している方はもちろんですが、AIに興味がある方や趣味でAIを触ったことがある方など、職種や経歴を問わず色々な方に参加いただけたら嬉しいです。 大西:もしも自分が開発したモジュールが採用されてオープンソースソフトウェアとして公開されたら、機械学習やディープラーニングなどさまざまな領域で活用される可能性がある。世界中で使われる技術に携わることで、非常に大きなやりがいを得られると思います。 末岡:もう一つの目玉は、自分が投稿したモジュールを、産総研が所有するAI橋渡しクラウドの「AI Bridging Cloud Infrastructure」(以下:ABCI)で検証してもらえることです。 新:これまで、「ABCIに興味はあるけど……」と敷居の高さを感じていた方にとっては、ABCIの性能を知る絶好の機会になると思います。

HPO-Competition-3

挑戦はまだまだ終わらない。目指すは、日本の産業の底上げ。

末岡:本コンペティションは予選・本戦の構成となっており、現在はまだ予選の段階。これから本戦も残っているのでまだまだ道は長いです。このコンペティションだけでなく、次のコンペティションや新たな施策にもチャレンジする予定です。 大西:そうですね。今回はハイパパラメータ調整の自動化を取り上げましたが、それ以外にも自動でデータの前処理をしたり、自動で学習効率を上げたりなど、モデル開発において自動化できる部分はたくさんあります。次回はそうした他の自動化技術を扱うコンペティションを検討したいですね。 新:こうした取り組みを続けることで、「国を挙げてAI技術の導入に取り組んでいる」「本気で社会を変えようとしている」ということを一人でも多くの方に知っていただくことが目標です。そしてそれが、AIに興味を持つきっかけになれば幸いですね。 末岡:私たちの挑戦をまずは知ってもらうことが大切だと考えています。そして、AIが抱える課題を技術で解決することに興味を持ってくださる方や、HPOモジュールに限らず自動化技術の開発にチャレンジしてくださる方が増えれば、社会全体のAI実装が一気に進むはず。そんな未来を目指して、今後も挑戦し続けていきます。

HPO-Competition-4

▼コンペティションページはこちら 「HPO モジュールコンテスト~ハイパパラメータ最適化を短時間で行うモジュールを開発しよう!~」

features-HPO-4

この記事をシェアする