2022年1月28日、タダノ主催「タダノ クレーン旋回操作最適化チャレンジ」コンペティションの表彰式が開催されました。当日は、上位入賞者として1位から5位を表彰。上位3位までの入賞者による解法のプレゼンテーションが行われ、さまざまな工夫点が発表されました。オンライン開催となりましたが、参加者や主催者の熱量が感じられる素晴らしい表彰式となりました。 まずは入賞者によるプレゼンテーションに先立って、主催者であるタダノを代表してユニットマネージャー運天氏から開会のご挨拶がありました。


▼動画はコチラ▼


主催者あいさつ

-079- Competition-Report-1

株式会社タダノ ユニットマネージャー 運天 弘樹 氏

「本日は、お忙しい中ご参加いただき誠にありがとうございます。当社は日本初の油圧クレーンを開発し、現在はLE(Lifting Equipment)の分野で世界No.1を目指す企業です。しかし、この業界はクレーンの熟練技能者減少による働き手不足など多くの問題を抱えています。そのためクレーン操作の自動化による安全性や生産性の向上が必要であり、当社でも自動化の研究開発を進めてきました。その中で、今回のような本格的なオープンイノベーションの実施は当社として初の試みであり、大きな転換点であると考えています。LE世界No.1を目指す企業の責任として、世の中に貢献するためにどのような選択肢をとるべきかを考え、導き出した答えのひとつが本コンペティションの開催です。その答え合わせには時間がかかるかもしれませんが、本日の表彰式がスタートになることを確信しております。以上、主催者挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。」 開会挨拶に続き、運営を代表してSIGNATE浜野氏より、コンペティション概要の説明が行われました。

-079- Competition-Report-2

株式会社SIGNATE データサイエンティスト 浜野 紘一 氏

「それでは、私から本コンペティションの概要と結果について説明します。まずテーマとしては、クレーンの旋回操作を最適化するアルゴリズムの作成です。クレーンの動きを再現し、目標旋回角度や吊り荷の重さなどの物理的なパラメータを持つシミュレータを利用して、2021年の9月から11月末まで約2ヶ月半にわたってスコアを競い合っていただきました。目指すべきポイントを簡単に言うと、クレーンに負荷をかけずに目標まで速く、ずらさず、荷を揺らさずに到達させることです。実際のクレーン操作でも重視されるこれらの事項をスコア化し、最終的にアルゴリズム性能を評価しました。開催結果についてですが、参加者は1,033名で、内訳としては社会人と大学生の割合がおよそ4:1、英語圏の方の参加も数%ありました。また投稿チーム数は120、投稿件数1,150件と、難易度が高いコンペティションでありながら多くの方にご参加いただきました。」

入賞者の発表

表彰式はメインコンテンツである入賞者の表彰と、解法プレゼンテーションへ。まず、5位と4位の入賞者の発表と表彰が行われました。

第5位

oka.kou 氏

-079- Competition-Report-3

「SIGNATEは始めて1年くらいなんですけども、コンペティションの成績は良かったり悪かったりとバラバラなので、安定して上位にいけるように今後も頑張りたいと思います。私は趣味でさまざまな運転免許を持っていまして、クレーン免許も持っていたこともあって良い成績につながったのかなと思います。今回はありがとうございました。」

第4位

yui_kasuga 氏

-079- Competition-Report-4

「今回はあまり見かけないシミュレータのコンペティションで、とても難しかったのですが、参加してみたところ非常に楽しく取り組むことができ、参加してよかったです。クレーンがどのように動くのかが分からず、動画サイトでクレーン操作の動画を見るなどしてイメージを膨らませながら挑めた点が面白かったですね。このコンペのおかげで以前より、クレーンがより身近に感じられるようになりました。ありがとうございました。」 続いて、3位に入賞されたsoldier-tn氏による解法のプレゼンテーションと質疑応答が行われました。

第3位

soldier-tn 氏

-079- Competition-Report-5

「今回は主に教師あり学習で挑みました。当初は純粋な強化学習で挑む予定だったのですが、いきなり強化学習エージェントに最適な行動パターンを探索させるよりも、まずは手本となる動作パターンをエージェントに学習させ、その上で探索させたほうが探索効率の向上が見込めると思い、この考えに至りました。この考えのもと、さまざまな設定パラメータで高スコアな動作パターンデータを多数集めること、また集めた動作パターンデータをモデルに正しく学習させることを徹底し、エージェントの精度を向上させました。モデルのコアにはMLPPegressorというscikit-learnのニューラルネットワークのライブラリを使用しました。開発は主にローカルPC上で行いましたが、同様の環境をAWSのクラウド上にも構築しまして、同様の学習をローカルとクラウドの2台で並行して行い、開発の効率化につなげました。発表は以上になります。ご清聴ありがとうございました。」 発表後の質疑応答では、以下のような質問が寄せられていました。 視聴者からの質問:もし熟練のオペレーターの実行操作データが得られるとすれば、モデルはさらに最適化できると考えられるでしょうか? soldier-tn氏の回答:はい。もっと高いスコアのデータセットを用意し、それをモデリング学習できれば、当然その分精度は上げられるかなと思います。 視聴者からの質問:手本データはどのように作成したのでしょうか? soldier-tn氏の回答:クレーンを自分で操作して、チュートリアルのノートブックでいただいたようなシーケンスデータを用意しました。 2位に入賞されたのは、kj1729氏。見事準優勝を果たした自身の解法について、丁寧にご説明いただきました。

第2位

kj1729 氏

-079- Competition-Report-6

「基本的には、ルールベースと最適化と機械学習を合わせたアプローチをとりました。まず、昨年タダノ様主催のウェビナーで行われていたデモを改善していく方針を取りました。改善していくにあたって取り組んだのは、初期レバー値と減速操作、停止位置の最適化を行うことです。進める中で、停止操作開始時のブームトップの速度と、停止までに要した距離に強い相関関係があることが分かったため、他の外的変数や観測値も加えた上で、停止までに要する距離を予測するモデルを機械学習で作成しました。機械学習の部分に関しては、モデリング手法としてRandom ForestとLightGBMを使用しました。いつもコンペティションを戦っていく中で、どうやってスコアを上げていくか悩むのですが、今回は少しコツが掴めたような気がしています。ご清聴ありがとうございました。」 発表後には、以下のような質問が寄せられました。 視聴者からの質問:学習時間はどれぐらいかかりましたか? kj1729氏の回答:1日がかりで10万回ほどシュミレータを回していき、それを10回ほど繰り返しました。 視聴者からの質問:追加学習が先行設定したモデルに影響を及ぼすことはなかったのでしょうか? kj1729氏の回答:操作時間が若干長くなった感覚はありましたが、基本的には影響はありませんでした。 最後にプレゼンテーションを行ったのは、栄えある第一位に輝いたチームnssol。チームを代表して、shun27411氏が発表を行いました。

第1位

チームnssol

-079- Competition-Report-7-2

「私たちもルールベースと機械学習を組み合わせたアプローチを取りました。まずルールベースでは、初期レバー値を0.5ほどまで上げて、そこから第1減衰、第2減衰、停止用減衰と段階的に減速させました。モデルとしてはLightGBMとMLPをアンサンブルしたのですが、寄与としてはほとんどLightGBMが効いたかなと思っています。その結果MAEで0.012ほどのモデルができることが確認できたので、制御パラメータをうまく設定すれば、シミュレータを動かさずともどのぐらいのスコアが取れそうか大まかに判断できると感じました。そのため、学習したモデルと外部パラメータを使ってさまざまなデータを作り、予測スコアが大きくなるレバー値や懸垂角度を逆算して実行させました。今回のコンペティションが非常に面白かったので、ぜひ引き続きいろいろなシミュレーションコンペティションに参加していきたいです。ありがとうございました。」 発表後には、以下のような質問が寄せられました。 視聴者からの質問:チームとして参加したメリットは何でしたか? チームnssolの回答:クレーンの知識がない中でも、分担して情報収集ができた点と、メンバーが他のアプローチをする中で得られた知見を共有しながら進めることができた点だと思います。 視聴者からの質問:減速の段階数はどうやって決めましたか? チームnssolの回答:泥臭く色々試しながら調整して3段階まで試したのですが、正直2段階との違いがあまり感じられず、また時間の制限もあったため、2段階を採用しました。 以上で、全ての解法プレゼンテーションが終了。 その後、株式会社DeepX の代表取締役CEO 那須野氏と、東京大学大学院工学系研究科 松尾 豊 教授の2名による講評が行われました。

-079- Competition-Report-8

株式会社DeepX 代表取締役CEO 那須野 薫 氏

「入賞された方、おめでとうございます。私たちDeepXは、AIを使って重機の自動化技術の開発を行っているベンチャー企業でして、タダノ様とクレーンの自動制御の開発を共同で行っております。今回のコンペティションはなかなか難易度が高かったと思うのですが、その中で皆様それぞれが色々な仮説を立てて、工夫を凝らして取り組まれたというふうに感じています。コンペティションに参加された方で、クレーンの自動制御にも踏み込んでいきたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひ今後も意見交換をさせていただけたら嬉しいです。」

-079- Competition-Report-9

東京大学大学院工学系研究科 松尾 豊 教授

「今回、シミュレータを使ったコンペティションが開かれ、これだけ多くの方々に参加していただいたということは、本当に素晴らしいことだと思います。こうして日本の製造業の力とAIをうまく組み合わせていくということが、今後とても重要になってくるのではないでしょうか。だからこそ、今回のコンペティションで普段あまり身近ではないクレーンについて触れていただいたことはとても意義があると感じています。ぜひ今回をきっかけに、実際の機械を動かす機械制御へのAIの活用に、どんどんチャレンジしていただければ幸いです。」 最後に株式会社タダノ代表取締役社長・CEO 氏家様より総評をいただき、閉会となりました。

-079- Competition-Report-10

株式会社タダノ 代表取締役社長・CEO 氏家 俊明 氏

「今回のチャレンジにご参加いただいた皆さん誠にありがとうございました。また、入賞された皆様おめでとうございます。大変素晴らしい結果を残していただいたと思っております。排気ガス対応の問題やオペレーターの減少、軽量化、小型化などに対応していく上で、我々だけではできないことがたくさんあります。しかし、今回最初のチャレンジではありつつも、本当の意味でのオープンイノベーションとして、皆様のお力添えをいただくことができました。今後ともさまざまな意味でオープンイノベーションの機会をつくっていきたいと思います。本日は本当にありがとうございました。」

まとめ

高齢化に伴う労働人口の減少の波は、建設業界にも押し寄せています。AIを活用したクレーンの自動化が実現すれば、労働力の確保だけでなく、安全性や生産性の向上など、業界が抱えるさまざまな課題が解決できます。その意味で今回のコンペティションは、業界の未来につながる非常に意義のあるコンペティションとなったのではないでしょうか。クレーンという普段は触れる機会のないテーマであったにもかかわらず、多くの方が参加し、工夫に満ちた解法がみられたのは、このコンペティションにかける主催者の「世の中に貢献したい」との強い想いが伝わったからかもしれないと感じました。今後もさらにオープンイノベーションが活発化して知の融合が進むことで、クレーンだけでなくあらゆるフィールドで可能性が開拓されていくことを願っています。 <株式会社タダノ「タダノ クレーン旋回操作最適化チャレンジ」コンペティションの入賞者レポートはこちら>

この記事をシェアする