2022年2月23日、SUBARU主催「SUBARU 画像認識チャレンジ」コンペティションの表彰式が開催されました。当日は、1位から3位までの上位入賞者が表彰され、各入賞者による解法のプレゼンテーションが行われました。プレゼンテーション終了後には質疑応答も実施。多種多様なアプローチから知見を得られる、素晴らしい表彰式となりました。


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まずは入賞者によるプレゼンテーションに先立って、運営を代表してSIGNATE青井氏より、コンペティションの概要説明が行われました。

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株式会社SIGNATE データサイエンティスト 青井 紀之 氏 「それでは、私から本コンペティションの概要と結果についてご説明させていただきます。まずコンペ概要としては、SUBARU様からいただいたアイサイトのデータを用いて、先行車の速度を取得するアルゴリズムを作成する内容でした。もう少し具体的に言うと、アイサイトで得られた左右画像と、そこから生成された視差画像、また自車速度やハンドル角といった情報を元に、フレーム単位で先行車の速度を推論するものです。上位60%以上の方を対象としてシーン別の平均スコアランキングでは雨や夜のシーンのスコアが低い傾向が見られました。これは画像の見た目の悪さが難易度に影響したと思っています。開催期間は、2021年11月19日から2022年1月31日の約2カ月半にわたってスコアを競い合っていただきました。参加者は1,051名で、内訳としては社会人と大学生の割合がおよそ7:2、日本語圏の方と英語圏の方の割合は20:1でした。また投稿者数は126、投稿件数2,077件と多くの方々に参加していただきました。またトップスコアは0.072と非常に高い精度を達成していただいたことに感謝申し上げます。」

入賞者の発表

表彰式はメインコンテンツである入賞者の表彰と、解法プレゼンテーションへと移っていきます。まず、3位に入賞されたチームKTNTKによる解法のプレゼンテーションと質疑応答が行われました。

第3位

チームKTNTK

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「先行車の速度を予測するために、段階的に処理を行っていきましたので、順を追って説明いたします。最初にアイサイト動画からフレームごとの先行車の矩形座標を算出し、次に視差画像からフレームごとの距離画像を作成しました。その後フレーム毎の車間距離を算出したのですが、視差画像が荒く、このまま先行車の速度を算出しようとすると誤差が大きくなってしまいました。こういうときこそ機械学習の出番だということで、20フレームまでの情報を使って機械学習を行い、相対速度の算出処理を行いました。これによりかなり誤差を小さくできましたが、雨や夜間等の悪条件下では精度が低かったため、トラッキングアルゴリズムを自作して先行車の矩形座標を算出するなど、いくつかの工夫を行いました。発表は以上になります。ご清聴いただき、ありがとうございました。」 発表後の質疑応答では、以下のような質問が寄せられていました。 視聴者からの質問:チームメンバーの役割分担はどうされていましたか? チームKTNTKの回答:役割分担は厳格に決めてはいなかったですね。チームメンバーの一人が作ってくれたプログラムを元に、距離画像からパラメータを取り出し、矩形座標の算出を正確にするなど、各々個人で精度向上に向けて取り組んでいきました。 視聴者からの質問:成果を出すまでに、どれだけの時間をかけましたか? チームKTNTKの回答:平日は仕事が終わった後、21時から0時ぐらいまでやっていましたね。土日も少し使ったので、週に15~20時間はかけていたと思います。 2位に入賞されたのは、異母反妙氏。準優勝を果たした自身の解法について、ご説明いただきました。

第2位

異母 反妙 氏

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「解法の概要としては、まずObject Detectionで先行車の領域を検出し、その領域で対応する視差画像の先行車領域を切り抜きました。次に、切り抜いた視差画像の複数フレームをCNNベースの3つのモデルに入力して速度を回帰するというモデルを作成しました。それぞれのモデルについて説明すると、モデル①は、視差画像15フレーム分をまとめてCNNに入力して一個のlogitを得た後、15フレーム分の自車速度とこのlogitをニューラルネットに入力して、先行車の速度を求めました。モデル②は、15フレーム分の視差画像を1フレームずつ個別にCNNに入力して、フレームの数のlogitを得るモデルです。モデル③はモデル②と構造は全く同じですが、自車速度の差分を入力にすることで、相対的な速度を回帰するモデルとしました。最終的に、この3つのモデルをアンサンブルしたものを提出物にしました。ご清聴いただき、ありがとうございます。」 発表後には、以下のような質問が寄せられました。 視聴者からの質問:今回3つのモデルをアンサンブルしたとのことですが、この3つのモデルに性能差や苦手なシーンはなかったのでしょうか? 異母反妙氏の回答:詳しい分析はしていないのですが、モデル①とモデル②のように構造が大きく異なるモデル間ではアンサンブルの効果がよく出たので、おそらく得意なシーンや苦手なシーンがあったのではないかと思います。 視聴者からの質問:モデル構築のうえで、もっと試したかったことはありましたか? 異母反妙氏の回答:たくさんあります。フレーム数をもっと増やしたかったですし、また他のオーギュメンテーションも試してみたかったと思っています。 最後にプレゼンテーションを行ったのは、見事第一位に輝いたohkawa3氏。優勝を飾った解法について、丁寧にご説明いただきました。

第1位

ohkawa3 氏

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「解法は大きく4つのモジュールからできていて、先行車両の検出、距離の算出、欠損値の取り除きと外れ値の補完処理、最後に速度の回帰となっています。まず先行車両の検出についてですが、私はセマンティック・セグメンテーションを用いました。理由としては、検出するのは先行車両一台だけなので、セマンティック・セグメンテーションでも十分動くだろうし、できるだけシンプルなモデルを使いたかったためです。また、使用した画像は視差画像と右画像で、Segmentation modelsというライブラリとAlbumentationを用いました。距離の算出については、先行車両の画像を組み合わせてヒストグラムを構築し、カーネル密度推定で滑らかな分布にした上で、最大最頻値を用いて距離を算出しました。その他、2次の多項式回帰とRANSACを用いて距離の欠損値や外れ値を検出・補完し、速度の回帰にはLight GBMを用いました。発表は以上になります。ありがとうございました。」 発表後には、以下のような質問が寄せられました。 視聴者からの質問:先行車両の検出について、右画像だけでなく視差画像も用いたのはなぜでしょうか? ohkawa3氏の回答:右画像のみ、右画像と左画像と視差画像、右画像と視差画像、など様々な組み合わせを試した結果、一番精度が高かったのがこの組み合わせだったためです。 視聴者からの質問:速度の回帰ではLight GBMを用いたとのことですが、それ以外に試したモデルはありますか? ohkawa3氏の回答:1D-CNNを用いました。性能としてはLight GBMと同等だったのですが、学習時間などはLight GBMの方が早かったため、Light GBMを採用しました。 以上で、全ての解法プレゼンテーションが終了し、株式会社SUBARUの小川氏より講評をいただきました。

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株式会社SUBARU 技術本部 ADAS開発部 AI R&D課 課長 小川 原也 氏

「本コンペティションの企画と問題設計を担当した小川と申します。今回の問題は、車両の検出やトラッキング、予測の要素も含んだ時系列の課題など様々な要素があったため、難易度が高すぎたかもしれないと思ったのですが、多くの方にご参加いただき、また想像以上のスコアも出していただいたこと大変嬉しく思います。今回のコンペティションを通じて、先行車の速度を認識する技術はまだまだ進化の余地があるということを痛感しました。今後も実用化に向けてさらに研究を重ねることで、弊社だけでなく自動車業界全体の発展に繋がることを願っています。それと同時に、今回のコンペティションがその一つの役割を担うことができたのではないかと思っています。改めて、ご参加いただいた皆様、また今回の実施にあたってフォローしていただいたSIGNATEの方々に、深く感謝申し上げます。」 最後に、株式会社SUBARUのSUBARU Lab副所長の齋藤氏より、今回のコンペティションの趣旨や総評が行われ、表彰式は幕を閉じました。

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株式会社 SUBARU SUBARU Lab副所長 齋藤 徹 氏 「今回は本コンペティションにご参加いただきありがとうございます。最後に、どのような思いでこのコンペティションを実施したのかも含めて、当社の紹介を簡単にさせていただきます。まず当社は車を作っている会社でありますが、その中でも特に安全技術に非常に力を入れ、交通事故を無くすために様々な分野から技術開発に取り組んでいます。そんな当社がなぜ今回コンペティションを開催したかというと、自動車半導体の限られたリソースで速度の計算を行うためには、膨大な数のトライアルが必要となってくるためです。最後に、SUBARU Labについて紹介させていただきたいと思うのですが、こうした画像認識と安全技術をさらに高めていくために、2020年の12月に渋谷にSUBARU Labをオープンしました。今回のコンペティションに興味を持った方は、ぜひ我々のチームにジョインしていただければと願っております。本日は本当にありがとうございました。」

まとめ

日本における交通事故のうち、最も多い原因が車両同士の追突だとされている中で、多くの企業が交通事故の予防安全技術の開発に力を注いでいます。今回のコンペティションのように、画像認識の技術を活用して新たな製品を生み出すことができれば、多くの人々の命を守ることにつながるはずです。その意味で今回のコンペティションは、自動車業界全体の発展に寄与する重要な機会となったのではないでしょうか。また入賞者の方による解法のプレゼンテーションでは、多種多様なアプローチによって最後の最後まで精度を向上させようと努力した様子が見られたのが印象的でした。今後も技術が進み、より安心・安全に自動車を運転することができる社会になることを願っています。 <株式会社SUBARU「SUBARU 画像認識チャレンジ」コンペティションの入賞者レポートはこちら>

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