コンペ開催事例_たばこ商品の画像検出で営業担当者の業務負担を軽減

日本のたばこビジネスを牽引する日本たばこ産業株式会社(JT)では、たばこを取り巻く社会環境の急速な変化に順応するために、積極的にデジタライゼーションを進めている。 2019年1月に事業企画室内にデジタル活用を促進するデジタルナビゲーションチームが発足。デジタル技術を活用し、各部署の課題を解決する取り組みがより強化された。 同社は2019年3月、「たばこの陳列棚を撮影した画像から、どこにどの商品が配置されているかを検出する」というテーマで、AIコンペティションを開催。 販売店舗の陳列棚のどこにどの銘柄が陳列されているのかを自動で画像認識しデータ化することにより、理想的な棚割(たばこを陳列する際のレイアウト)について効率的に分析できるようになる。 このデータ化の作業を行うには営業担当者の手作業の業務が多く、大きな手間や時間がかかっていた。 「この問題をAIによって解決し、営業担当者の生産性を向上させるのがコンペの狙いでした」と加藤さんは話す。 優れたモデルを得たことはもちろん、今回のコンペはさまざまな好影響をもたらしてくれたと言う加藤さんに、コンペによって得られた成果について詳しくお聞きした。

コンペ開催の経緯

Q.まず、今回のコンペを開催した狙いを聞かせてください。

現在、たばこは従来の紙巻きたばこに加えて「低温加熱型」「高温加熱型」の加熱式たばこなども登場し、お客様は多くの選択肢からお選びいただけるようになっています。 しかし製品の種類が増えると共に、弊社の営業担当者の業務量が増えるという課題を抱えるようになりました。 弊社では、販売店舗の方への売り場支援の一環として、棚割(陳列棚のどこにどの商品をレイアウトするか)のサポートも行っています。 「お客様が欲しいたばこをよりスムーズに選べるようにするには?」「注目してもらいたい商品をより分かりやすく配置するには?」という視点で分析を行い、店舗ごとの状況に合わせてご提案しています。 この分析を行うためには、店舗ごとの棚割情報をデータ化する必要があります。この作業をより効率的に行いたいと考え、AIコンペティションを開催しました。

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Q.これまでは、どんな方法でデータ化していたのですか?

営業担当者が店舗を回って、お客様の邪魔にならないように注意しながら棚割情報を手書きでメモを取り、その内容をデータ化していました。 営業経験者の話では、10店舗で2時間かかることもあり、数万店舗のコンビニへの納入を考慮すると1万時間が棚割データの作成に費やされることになります。 私たち事業企画室デジタルナビゲーションチームでは、こうした各部門が抱える課題をデジタル技術によって解決していくことをミッションとしています。 棚割情報のデータ化に時間がかかるという課題を解決するために、画像データから棚割情報の自動作成ができないかと考えました。

コンペはどのように進行した?

Q.コンペの存在を知ったきっかけを聞かせてください。

あるAIの展示会で、SIGNATE齊藤代表のスピーチをお聞きする機会がありました。 そこで、ある大手企業がSIGNATEでコンペを開催したという話が出たのです。 あくまでも私の個人的な印象ではありますが、その大手企業さんは、新しいものを導入する際に慎重に検討を重ねる企業だと思っていました。そのような企業がAI開発コンペティションを取り入れているという話に大きく影響を受け、ぜひ弊社でもコンペを開催したいと考えたのです。 これまで弊社でもAIによる手書き文章のテキスト化や、データ分析による製品の売上予測には取り組んできたのですが、なかなか納得できる成果が得られていないという状況でした。 原因は弊社のデータ不足だろうという意見もあったのですが、本当にデータが原因であるかを判断するのは難しいです。もしかしたら、業務を委託した外部パートナーの技術力がボトルネックになっている可能性も否定できないわけです。 同じテーマを複数のパートナーに発注して技術力を比較してみるという方法は現実的ではありません。 そんな課題を抱えていた弊社にとって、同じテーマを複数の参加者に競っていただけるコンペという方法は、非常にマッチしていると思いました。

Q.開催決定後は、どのように進行したのですか?苦労した点はありましたか?

テーマの選定には、やや苦戦しました(笑) いろいろとテーマは浮かぶのですが、「そのテーマを実現するにはこのデータを公開しなければならない。しかしこのデータは公開可能なのか?」と、迷うことも多かったんです。 この点はSIGNATEに何度も相談させていただき、少し時間はかかったものの、最終的には「たばこ商品の画像検出」というテーマに決定しました。 たばこの販売に関する企画ではないものの、今回はコンペ参加者を二十歳以上に限定しました。弊社ならではのそういったオファーにも、SIGNATEは柔軟に対応してくれたので、感謝しています。

Q.コンペに必要なデータは、スムーズに揃えることができましたか?

いえ、実はそもそも分析に使用する画像データが非常に少なかったんです。そこで自社の倉庫に什器を用意してたばこを配置し、社員3人ほどでいろいろな配置パターンの写真を300枚ほど撮影しました。 写真に映っているたばこの銘柄一つひとつをリスト化するのもやや手間がかかりましたが、リストさえ完成すれば画像へのアノテーションはSIGNATEにお願いできたので非常に助かりました。 テーマ選定やデータの用意に時間はかかってしまいましたが、我々が期待する効果は得られるはずだと思っていたので、コンペを開催したいという思いは揺るぎませんでしたね。

コンペで得られた成果

Q.コンペの開催によって、どんな成果がありましたか?

何よりも、99%を超える精度のモデルを作成いただけたことに満足しています。200枚ほどの画像データでこれだけの精度ですから、データを増やすことによって、さらなる精度の向上も期待できるのではと感じています。 2つ目は「AIは決してハードルの高いものではない」ということを、社内にアピールできた点です。 コンペの結果が出るまでは、コンペ概要や表彰式の様子をイントラサイト(社内向けの情報共有サイト)に掲載し、それを見た社員からデジタルに関する問い合わせが来るだけでも、開催する意義があると考えていました。 実際に社内からの反響は大きく、各部門から「自分たちの業務にもAIを活用できないか」という問い合わせが来ました。コンペの記事をきっかけにイントラサイト内の他記事を読んで、それについて問い合わせをしてきた社員もいました。 もちろん、本当にAIを活用すべき課題であるかどうかのジャッジは必要ですが、こうしてさまざまな部門がよりAIに興味を持ってくれたということは、私たちにとっては嬉しい変化です。 コンペの表彰式には、弊社の当時の副社長も出席し、「こういう取り組みを今後も積極的に進めてほしい」と言葉をかけてもらいました。 上層部から前向きに評価してもらえたことは、今後私たちがデジタライゼーションを推進する中で、追い風となってくれると思います。

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コンペティションの表彰式の様子 3つ目に、コンペを通じてAI 技術者の方々との新しい出会いがありました。 表彰式でお会いした東京大学の学生がすでに起業されているそうで、「今後、何か一緒に取り組めないか」という話もできました。 普段はなかなかこういう人たちと出会えませんから、表彰式は良い機会になりました。 また、コンペ終了後に知ったのですが、今回のコンペには以前に弊社からデータ分析業務をお願いした外部パートナーも参加しており、3位に入賞していたのです。彼らにスキルがあることが確信できたので、これからも安心して業務を発注できると思いました。

最後に

Q.ありがとうございました。コンペ開催を検討する企業に向けて、メッセージをお願いします。

コンペという開発形式は、自社の課題にフィットすれば非常に有効だと思います。 最初はデータが思うように揃わずやや苦戦したのですが、データがないからといって諦めたら、それ以上前には進めません。実際に弊社でも、AI やデータ分析を導入したくてもデータが揃わないため話が終わってしまったというケースが過去にありました。 データというのは待っていても自然に出てくるわけではありません。 「データがなければデータを作ってみよう」もしくは「あるデータでスモール&クイックに初めてみよう」という発想にシフトすれば、AIの活用が活発に進んでいくのではないでしょうか。 <日本たばこ産業株式会社(JT)のコンペティション詳細ページはこちら>

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