コンペ開催事例_AI導入が進まない漁業業界に希望を。_国立研究開発法人水産研究・教育機構

昨今、AIを導入することで大きな成果をあげる企業は多い。しかし、水産業におけるAI導入事例はごく僅か。大きな理由は、データを手配する難しさにある。 特に、大島氏が担当する遠洋漁業は、沿岸から遠く離れた洋上で長期にわたって行われ、気軽にデータを取りにいける環境ではない。乗組員にデータ提供を依頼するとしても、その作業はとても煩雑で、本業である漁業の妨げにもなってしまう。 しかし、大島氏が所属する水産研究・教育機構開発調査センターでは、従来から実際の漁船をチャーターし研究を行っていた。民間の漁業技術の向上や効率化のためには、現場のリアルな情報を元にしなければ意味をなさないためだ。 水産業にAI導入の活路を拓くのは、現場のデータを誰よりも持っている自分たちの役目なのではないか。水産業の発展を目指す大島氏、そして水産研究・教育機構の想いから「漁業×AIチャレンジ『魚群検知アルゴリズムの作成』」コンペティションは動き出した。開催までの経緯や、取り組みにおける工夫、そして参加することで得られた学びについて、大島氏に話を伺った。

現場、AI、そして自分たち。全ての思惑が噛み合った。

本コンペティション開催を検討する前から、AI導入は検討していました。水産業の従業者は減少しており、業務効率化は必要不可欠。他業界でのAI導入実例も拝見する中で、漁業におけるAIの可能性を感じていたからです。最初に行ったのが、有識者をはじめとした関係各所へのヒアリングです。AIの得意な分野や苦手な分野、私たちの研究領域、現場での導入効果など、様々な側面から検討し、魚群探知分野ならディープラーニングによる自動化ができるのではないかと思い当たりました。 対象としたのは、カツオやマグロ漁で用いられるまき網漁業です。まず目視で魚群を発見し、囲むように投網・揚網が行われます。最初の工程である魚群探知を、目視ではなくAIで自動化できないかと考えたのです。ドローンで海面を撮影し、そのデータをAIアルゴリズムにかけることで魚群を自動検知する。実現すれば、目視にかかる工数や人員を削減でき、発見までの時間も短縮可能で、他国の漁船に対して優位性も担保できます。漁獲量の増加や水産業の発展にも繋がる。現場のメリット、私たちが提供できるデータ、AIの得意分野。全てが重なり合ったこのテーマならいけると思いましたね。

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コンペのメリットを活かすのは、会員数の多さ。

次に考えたのは、このテーマに対しての取り組み方です。有識者へのヒアリングを元に、社内で完結させることも考えました。しかし、水産業への知見はありますが、AIに関するノウハウはありません。 結論として、外部の力を借りるべきだという話になりました。大きく方向性は2つありました。ベンダーに外注するか、コンペティションという形でアイデアを募るか。まず、いくつかのAIベンダーに話を聞きました。魅力的な部分もあったものの、作成したアルゴリズムの精度や著作権、費用などの懸念点が多く、外注の方向性は断念せざるを得ませんでした。 一方、コンペティションであればコストも抑えられる。著作権も譲渡される。精度についても参加者が多ければ一定担保できる見込みがある。こちらでいこうと決まりました。過去の開催コンペ数や会員数をはじめとした実績面も、大きなポイントとなりました。 最終的には、精度の高いアルゴリズムが数多く集まったのですが、これは会員数の多さが効いていると思います。それだけ参加者も多くなり、応募案も集まる。人数が多ければ競争意識も生まれやすい。期間中にコンペ参加者同士が切磋琢磨している様子は、リーダーボードを見ていて伝わってきました。

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適切なフォローとアドバイスに安心感を覚えた。

最終的な納品物のクオリティーだけでなく、フォローの部分でも助かった部分は多いです。どのような切り口であれば、参加者の興味を惹きやすいか。実用性の高い案を集めるには、どのようなデータを用意すべきか。必要に応じて、準備作業そのものも担ってもらい、スムーズにコンペを開催することができました。 応募前にはベーシックなモデルでシミュレーションしていただき、想定される基準の精度も共有いただいたので、応募を締め切るまで納品物の精度に不安を抱き続けることもありませんでした。 開催中は、毎日リーダーボードを確認していました。なかなかスコアが伸びない日が続いた後で一気に伸びた時には、開発者のような気持ちで喜んでいました。スコアだけでなく、参加者同士のやりとりがされるチャットも閲覧していました。 そこで目が止まったのが「時系列情報も使った方が精度は上がるのでは?」という声。私もそう思ったので、急遽途中から時系列情報も配布し、参加者の方と一緒にコンペティションをつくり上げているような一体感がありましたね。

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皆さんの知恵を借りながら、水産業を盛り上げていきたい。

納品していただいたアルゴリズムも、想定を超える精度でとても満足しています。1位の方はもちろん、2位以下の方のご提案も高いクオリティーのものでした。 私自身は、AIにそこまで詳しいわけではありませんが、表彰式を見ていると入賞者の皆さんが様々に工夫を凝らしていることが伝わってきて、ありがたかったです。特に、海面下の魚群に関しては、私が見ても判別が難しいものもありました。難易度が高い画像データでも的確に判別できているケースが多く、少し調整をかければ無人機に載せられるのではと考えています。 本コンペの開催を通じて大きく実用化に近づくことができ、想定以上の手応えを感じています。テーマ選定が肝になりますが、画像認識領域であれば参加者の興味を惹きやすいこともわかりました。 画像判別で効率化や成果向上が見込めるテーマは、水産業の中にもたくさんあります。私の部署だけでなく、他の部署においても是非コンペを活用していければと思っています。参加者の皆さんの知恵を借りながら、日本の水産業に貢献するために私たち自身も日々の研究にさらに力を入れていきますので。

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今後の展開

実は、本コンペの主催と並行して、漁船上から無人機を運用する試験も実施しています。実証調査を継続し、船からの発着・飛行や船との通信が安定的に行えるようになり次第、皆さんに開発してもらった学習モデルを積み込んだ実証試験に移る予定です。 一刻も早く実用化に漕ぎ付け、民間の漁業従事者に普及させたいと考えています。 <国立研究開発法人 水産研究・教育機構のコンペティション詳細ページはこちら>

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