コンペ開催事例_引っ越しの需要量を予測し生産性を向上!_アップル引越しセンター

2006年の創業以来、競争が激化する引っ越し業界の中で業績を拡大してきたアップル引越センター。 文字代表取締役はWEBで引越し予約が完結する『ラクニコス』の導入をはじめとして、引越し×テクノロジーの取り組みにも注力してきた。 そんな文字代表が次に着目したのは、AI・データサイエンスの領域だった。 一社のベンダーに依存することなく多様な意見を採用できることに魅力を感じ、コンペティションによるAI開発を決意。引越しの多忙期と閑散期を適切に見定め、無駄のない人員配置を実現して利益率向上を図るために「引越し需要数予測」をテーマに選定。 今回は文字代表に、コンペティションの成果や今後の展望について詳しく話を聞いた。

コンペ開催の経緯

Q.今回、コンペを開催した狙いを聞かせてください。

昨今、引越し業界は競争が激化し、年々サービス単価が下がってきています。加えて、働き方改革の推進によって従業員の給与や休日を充実させていく必要が出てきました。 つまり昔と同じやり方では利益が増えないため、提供するサービスの質を落とすことなく、いかに生産性を高めて利益率を上げていくかを考えなければならないのです。 生産性を上げるためには、スタッフのシフト管理が非常に重要です。我々のような引越し会社におけるコストの多くは「スタッフ」にかかるお金、つまり人件費です。 そこで、引越しの需要量を的確に予測することで「閑散期には人手を減らし、繁忙期には十分なスタッフを確保する」という無駄のないシフトを組めれば、生産性・利益率の向上が見込めるのではないかと考えました。

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さらに、需要量予測を実現することでプライシング(価格設定)の最適化を図るというのも狙いの一つでした。引越し業界は旅行業界と一緒で、「週末や年末年始は高料金で平日は低料金」というように、曜日や時期によって異なる金額を設定します。 このプライシングを間違ってしまうと、忙しかったのに期待したほど利益が上がらなかったり、暇な時期がより暇になってしまったりということが起こり得ます。 その問題を解決するためにも、引越しのニーズをより正確に予測することは重要だと考えました。

Q.アルゴリズムが手に入る以前は、どんな形で予測をしていたのでしょう?

もともとは、私自身の経験則からある程度仮説を立て、それをもとに需要量を予測していました。言い換えると、社内で私しか需要の予測が立てられないという状況だったのです。 こうした属人的な状況を改善し、効率的に予測をたてるためには「よりシステマチックに、かつ精度の高い需要予測ができる体制」が必要だと考えていました。 もし高精度のアルゴリズムを得ることで他のスタッフも同じことができるようになれば、私がいないときでも人件費のロスを減らすことができます。長期的な視野で考えれば、コンペに費用がかかることを考慮しても開催する意義があると思いました。

コンペはどのように進行した?

Q.コンペを開催するという新しい方法に、抵抗はなかったですか?

ある経営者勉強会でSIGNATEの役員の方とお話する機会があり、コンペの存在を知りました。弊社は以前よりシステム開発に力を入れていたので、コンペを開催することに全く抵抗はなかったですね。 AIのアルゴリズムを作るにあたって受託開発という手段もあったのですが、その方法だとどうしても一社のパートナーに頼ることになってしまいます。 我々はAIの専門家ではないため、パートナーの能力が測りきれないという課題がありましたので、判断材料がないまま一社に依存するのはリスキーだと思いました。コンペを開催すればそういう心配がなく、バイアスのない多様なアイデアが集まるのではないかと考えたのです。

Q.コンペを開催してからはスムーズに進んだのでしょうか? 

はい、SIGNATEのみなさんが丁寧にサポートしてくれたので助かりました。たしかに最初は「説明を聞いても専門用語だらけでわからないのでは?」という不安がありました。しかしSIGNATEの方は非常にわかりやすくかみ砕いて説明してくれたのです。 一方で、定量的データを提示しながら鋭い説明もしてくれる。そのバランスが心地よく感じましたね。

コンペで得られた成果

Q.コンペ開催によって、具体的にどのような成果を得られましたか?

大きく3つの成果があったと思います。 まずはアルゴリズムという優れた成果物を手に入れたことで、誰もが同じくらいの精度で需要量予測ができるようになりました。属人的だった業務をシステマチックに改善することができ、工数削減にもつながったのです。 これまでは需要予測に以下のような3つのステップを踏んでいましたが、アルゴリズムを導入したことで2つのステップで済むようになりました。

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需要量予測に関わっているスタッフからは「新しい仕事に挑戦できる時間がとれるようになった」という声もあがっています。爆発的にではありませんが、利益率もやや向上しました。 これまで引越し業界の常識であった「3~4月が最も忙しい」というデータが覆ることはなかったものの、意外な発見もありました。 引越しの需要は時期や曜日だけでなく、さまざまなイベントによっても変動します。これまでにどんなイベントで需要が変わるのか、ある程度の予測はできていたのですが、アルゴリズムの導入でそれが確信に変わったり、意外なイベントで需要が発生しているという新しい気付きがあったりもしました。 2つ目は、広報的な効果です。 今回のコンペを通じて多くの方に弊社を知っていただくことができました。 ただ弊社の名前を知っていただくだけでなく、「こういう先進的な取り組みをしている引越し会社があるんだ」という印象をさまざまな人に与えることができたのは、弊社にとってプラスになったと思います。 コンペ参加者が弊社のことをSNSで発信してくれたり、弊社に引越しを依頼してくれたりもしたんですよ(笑)こういう新しい繋がりができたことは、とても嬉しかったですね。 そして3つ目が、今回のコンペを通じて私自身AIの知識が深まったことです。

AIという言葉の意味は理解していましたが、今回の取り組みを通じて「具体的にどんな仕組みになっているのか」「どんな言語を使っているのか」というところまで深く理解できるようになりました。

最近はさまざまな企業がAI関連の取り組みを始めたりサービスをリリースしたりしていますが、それを見たときに、「裏側でこんなデータを使っているのかな?こういう仕組みなんじゃないか?」と、より鋭く考察することが増えました。

今後の展望は?

 Q.AIの知識が増えたことで、新たに挑戦したいと考えるようになったことはありますか?

そうですね、やってみたいと思うことがいくつか出てきました。 一つは、人のマネジメントにAI技術を取り入れることです。たとえばエントリーシートを分析して良い人材を選別するような、「優秀な人材を採用する・育てる」というソフトはすでにありますよね。 しかし私が考えているのは、これまでのスタッフのリアルな退職理由や面談記録のデータを分析することで離職率の低下につなげたり、管理者が適切にマネージメントできているかをチェックしたりという仕組みの実現です。 そのためには、既存の汎用的なソフトを使うのではなく、自分たちの考え方や業種に合った仕組みを作ることが重要だと考えています。 もう一つは、まだまだアナログな部分が多い管理系業務の改善です。例えば経理処理とか勤怠管理とか、いろいろなソフトは出ていますが、いずれも「タスクを明確にして、人に指示してくれる」というものが多いように感じます。 しかし実際に問題なのは、そうやってソフトが「指示」してくれても、担当者が期日通りにその業務をこなせなかったり、こなせたとしても管理者によるチェックが追いつかなかったり甘かったりすること。 そういう弱点をオートメーションで感知し、業務を効率化してくれるような体制をAIで実現したいですね。例えばある経理ソフトでは、伝票を取り込んで仕分けをアノテーションしていくと、次から似たような伝票が取り込まれた時に自動でアノテーションラベルを付与してくれたりするんですけど、そんなイメージですね。 そういったことを実現するためにも、今後はデータサイエンティストを採用することも視野に入れています。 これまではそうした職種の方と全く接点がなかったため、そもそも採用イメージがわきませんでした。今回のコンペをきっかけにデータサイエンティストの存在を身近に感じられ、一定程度、共通言語で会話ができるようになったことで、採用が少し現実的になってきたと思います。

最後に

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Q.ありがとうございました、最後にコンペ開催を検討する(または興味がある)企業に向けてメッセージをお願いします。

今回のコンペのように、新しい取り組みに挑戦する場合、その実施によって「いくら売上がアップして、どのぐらい利益が出るか」という数値的根拠を完璧に用意しなければならない企業も多いと思います。しかし、その発想ではどうしてもハードルが上がり、コンペ開催のチャンスを逃してしまう可能性があります。ですから、費用対効果については柔軟に考えてトライしてみることをおすすめします。 コンペを通じて急激に売上が上がったり、利益率が向上したり、工数を削減できたりしなくとも、毎年少しずつコスト削減に繋がり、社員の作業時間を減らすことができれば、数年後にはコンペにかかった費用は十分に回収できると、私は考えます。 また、コンペを通じて私(会社)にもAI活用に関する知見が蓄積し、さらに広報的な効果も継続して感じています。弊社のコンペに関連する記事を見て、「こうした先進的な取り組みをしている企業で働きたい」と思ってくれる人もいて、今後は採用にもつながってくるのではないかと期待しています。 このように、想定していた以上の効果が期待できることも、コンペの大きな魅力だと思います。 <アップル引越センターのコンペティション詳細ページはこちら>

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