ProjectStories_異分野出身の2人が描くJR西日本と鉄道業界の未来

兒玉さんは経済学部で統計学を専攻し、コンピュータサイエンスは未経験。入社後も車両の点検業務や運転士業務に従事してきた。一方の松田さんは理系出身ではあるものの、グループ会社へ出向し、点検保守の教育を行うなど、AIとは離れたキャリアを歩んできた。 そんな2人が、どのような想いで社内公募に応募し、現在の部署に異動してきたのか。そして、どんな想いで仕事に向き合っているのか。本音で語っていただいた。

利用者は1日数百万人。暮らしに根付いた膨大なデータを扱える魅力。

院卒と学部卒。全く違う道を歩んできたものの、現在同じ部署の仲間として働く松田さんと兒玉さん。ともに、データを活用した車両や施設各種のメンテナンスの効率化を担っている。果たして2人は、どのような経緯で出会うこととなったのか。その起点である入社理由もそれぞれ別々のものだが、「JR西日本のデータを活用する業務が面白そう」との点は共通していたという。 兒玉:当時は、データサイエンティストという職種もあまり世の中に根付いていませんでした。そのような中でも、鉄道という暮らしに根付いた事業なら、多くの人たちに自分の仕事で価値を提供できると感じていました。 松田:暮らしに根付いた事業にも繋がりますが、私にとってはJR西日本が保有しているデータが魅力的でした。毎日何百万人もの利用者がいて、膨大なデータが蓄積されている。数だけでなく、データの種類も生活に身近なものだから、応用範囲が広そうとも感じました。また、メーカーの開発系職種を選択すると、担当商品だけを極め続けるようなキャリアになるイメージがあったんです。それよりも、外部のベンダーさんともコミュニケーションをとりながら様々な製品や技術に触れられる方が面白そうだったのも入社理由の一つです。

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自由研究で行った故障予測システムが、今ではサービスとして実装されるまでに

ともに、JR西日本ならではのデータ分析業務に惹かれた二人。しかし、初期のキャリアはそこから少し外れたものだった。当時抱えていた率直な思いはどのようなものだったのか。業務内容へのギャップはなかったのか。話を伺ってみると、二人とも工夫を凝らしながら入社直後からデータに触れる機会を自ら創り出していたという。 松田:入社直後から2年ほど、グループ会社への出向も挟みながら点検保守の管理をしていました。具体的には改札や精算機といった機械設備の点検保守に関する契約を管理する役割。老朽化対策の工事計画を立て、進行管理するのが主な仕事でした。これらは基本的にエクセルで管理するもので、直接データを分析する機会はありません。そこで、勤務時間の何割かを研究開発に充てられる制度を利用して、データをもとに改札機の故障を予測するモデルの構築に挑戦してみました。数年間の試行を経て、昨年よりこのシステムは一部エリアに導入され、会社にも貢献できたと思っています。 兒玉:私は、転々と部署を異動してきました。新幹線基地での検査修繕、運転士、指令所での運行管理など、様々な仕事を経験しましたが、いずれもデータ分析・活用のスキルはそこまで求められるものではありません。しかし、やはり興味はあったので、データは毎日眺めていましたね。車両の中にも膨大な数のセンサー情報があって、伝送されてくるのです。それを見ながら、『このデータをこう活用して、もっとここを効率化できるのになあ』と考えを巡らせるのが日課でした。この経験は、今の業務にも活きていると思います。

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人口減少に新型コロナ。AI活用をもっと進めていかなければ未来は険しい。

本業では機会がなくとも、隙間時間を活用しながらデータに触れ続けてきた2人。その気持ちに応えるかのように、現データアナリティクスグループの社内公募が出されたのが、2018年のこと。我こそはと応募した2人は、SIGNATE上で開催された自社コンペに参加し、上位入賞していたことも評価され、異動が実現。現在はデータサイエンティストとしてAIを駆使したメンテナンスの効率化などに従事している。念願叶った嬉しさとやりがいを感じながら働く一方で、まだまだ満足していない部分もあると語る。 兒玉:現在は鉄道車両や地上設備のメンテナンスにAIを組み込むことで、検査を効率化するシステムを実装しています。これまで、鉄道業界の点検方式はTBM(※1)と呼ばれる、時間が来たら取り替える手法が一般的でした。しかし、この手法だと、まだまだ問題なく使用できるのに交換するケースも多発してしまいます。これでは、部品代や取り替え費用、人件費や工数も含めて金銭的にも時間的にも多くの無駄が発生します。そこで、対象機器のあらゆるデータを分析し、異常値を自動的に予測、検知することで適切なタイミングでメンテナンスを行うものです。 松田:改札機の故障予測も含め、こうした取り組みが会社に貢献できているとは思います。しかし、まだまだ足りない。人口はこの先どんどん減少していきますし、直近では新型コロナの影響でお客様も減少している。そうした状況でも安定してサービスを提供していくには、さらなるメンテナンスの効率化が必要不可欠。もっと全社的にAI活用を推進していきたいと考えています。 ※1 TBM(Time Based Maintenance):機器の状態に関わらず、一定間隔で対象部品を交換するメンテナンス手法。

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AI活用のさらなる推進、さらには業界を巻き込んだ共有知化を実現したい。

現状でも会社への貢献を実感しつつも、さらなる展開が必要不可欠であると語る松田さんと兒玉さん。では、取り組みをさらに広げていくためには、どうすればいいのか。2人の考える展望を最後に伺ってみた。 兒玉:個人的には、データ分析の内製化をもっと推進していきたいですね。AIは課題を解決するための手法。その課題を誰より知っているのは当事者である自分たちなのです。ならば、自分達で作った方が、より課題に対して適切なアプローチができるように思います。 松田:兒玉さんの言うように、内製化を進めることは大切です。一方で、外部の知見をより活用するための動きも並行して進めるべきだと思っています。各社で、ほぼ同じような機器を導入しているのに、それぞれが独自に開発を進めているのが今の鉄道業界。この業界は、特に他社とお客様を奪い合うようなビジネスモデルではないわけですから、競争領域と共創領域を分けて考え、共創領域についてはそれぞれが持つノウハウやリソースを共有知化して、業界全体としてDXを推進していくべきではないでしょうか。 自ら手を挙げ、希望の仕事に就いても一切満足することなく、さらなるAIの活用や業界全体を巻き込んだDX推進まで視野に入れている。自らのスキルを磨くべく、自己研鑽のためにSIGNATEのコンペティションにも継続的に参加していく予定だ。そんな2人の向上心が、日本の鉄道の未来を明るく照らしてしてくれる日もきっと遠くないことだろう。

今後の目標

兒玉:マネジメントだけでなくプレーヤーとしてもあり続けたいですね。当社の場合、実績を積むにつれてマネジメントの比重が高くなり、徐々に現場からの距離が遠くなりがちです。常に最新の情報をキャッチアップして成果を出し続け、年齢を重ねても現場から外せないと思われるようなデータサイエンティストでありたいです。 松田:データ分析の内製化だけでなく、先ほど今後の展望で話した共創活動にも従事し、鉄道業界のDX推進にも貢献したいです。コロナ禍で、鉄道業界全体が大きなダメージを受けていますが、データ分析やA Iといった技術を駆使して、将来にわたり持続可能な鉄道システムの実現を目指していきたいです。 ※西日本旅客鉄道株式会社のSIGNATE Campus掲載情報はこちら

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